東京地方裁判所 平成2年(ワ)1332号 判決 1990年10月29日
原告
X
右訴訟代理人弁護士
篠原千廣
伊藤一
被告
Y
右訴訟代理人弁護士
中川賢二
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
理由
一 請求原因1ないし4の事実は当事者間に争いがない。
原告の本訴請求は、Aによりその相続人の一人である被告に対してなされた包括遺贈について、原告が遺留分減殺の意思表示をしたとして、被告がAから遺贈を原因として所有権移転登記を受けた不動産(後記売却処分したものを除く。)につき遺留分の割合による持分一部移転登記手続を求めるとともに被告が右移転登記後に売却処分した不動産につき遺留分相当の価額弁償を求めるものである。
ところで、包括遺贈があつた場合、包括受遺者は相続人と同一の権利義務を有するものとされている(民法九九〇条)から、包括遺贈に対する遺留分減殺請求がなされたときの法律関係は、遺言による相続分の指定に対する遺留分減殺請求がなされたときの法律関係と同視されるべきものであるところ、遺言による相続分の指定によつて他の相続人の遺留分が侵害され、当該相続人が遺留分減殺の意思表示をした場合には、遺言による相続分の指定が減殺請求をした相続人の遺留分を侵害する限度において効力を失つて修正を受けるにとどまり、各共同相続人は、被相続人の全遺産の上に右修正された割合の抽象的な相続分を有するにすぎないというべきである。したがつて、このような場合に、遺産を構成する個々の財産の具体的な帰属を確定するためには、減殺請求によつて修正された相続分に従つて、法律の定める遺産分割の手続を経ることが必要であり、減殺請求をした相続人が直ちに遺産を構成する個々の財産について遺留分の割合による共有持分権を取得したり、相続開始後に処分された遺産の価額弁償請求権を取得するということはできないと解される。
そうしてみると、被告に対して包括遺贈がされた本件において、遺産分割手続がとられて個々の財産の具体的な帰属が確定したことについて何ら主張立証がないから、原告が、その遺留分減殺請求によつて、別紙物件目録記載の一ないし三及び五ないし七の各不動産について共有持分権を取得し、同四の不動産についてその処分による価額弁償請求権を取得したということはできない。
したがつて、本件不動産についての共有持分権及び価額弁償請求権の取得を前提として、その移転登記及び金員の支払いを求める原告の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、失当である。
二 よつて、原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却する
(裁判官 安倍嘉人)